「サラダボウル」を目指して――TIG(東京インタナショナル・グループ)の取り組み
〝同じ地域に住む創価学会員〟という共通点だけで、職業も世代も全く異なる人々が集い合う、学会の座談会。普通に生活していたら交わらないような人たちと出会い、語り合える場は、触発に満ちています。
私には、この地域の集いのほかにもう一つ、参加している座談会があります。それは、私が青年部の責任者を務めるTIG(東京インタナショナル・グループ)の座談会。こちらもまた、驚きや発見に満ちています。
今回はこのTIGについて書きたいと思います。TIGは、国際本部・在日外国人部のグループです。学会員でも聞き慣れないかもしれませんが、実は50年近くの歴史を持つ、首都圏在住で英語を話す海外メンバーの集いです。私自身も日系アメリカ人です。
TIGのメンバーが日本に来た背景は、それぞれ。仕事や出稼ぎ、留学、パートナーが日本人だったから……。中には、難民状態で日本に逃げてきた方もいます。〝日蓮仏法と創価学会が生まれた国で活動がしたい〟との思いで、来日した方も。
私が暮らしていたアメリカは、「メルティングポット(多様な人種や文化が混ざり合う場所=人種のるつぼ)」と言われてきましたが、40カ国、約400人のメンバーが所属するTIG青年部は、それ以上かもしれません。
TIG青年部の活動の軸の一つは、毎月2回行っている青年座談会です。司会や、参加してくれた友人への仏法紹介を新入会のメンバーが担うなど、明るく、活気にあふれています。
座談会では、ディスカッションをメイン企画にしています。その前にはアイスブレイクを入れ、各国の生活が垣間見えるようなお題を選ぶときもあります。例えば、「冬場に一番、重宝しているもの」というお題に、あるインドのメンバーは「体が暖かくなるスパイス!」と。
〝同じ信仰をしている仲間〟という思いは、もちろん皆が持っていますが、互いの国の文化がイメージできると、心の距離は一層、縮まります。
座談会では実生活に結びつけやすいテーマを決め、そのテーマにそって池田先生の著書や御書を研鑽し、ディスカッションをしています。最近では、
「The Power of a Grateful Heart(感謝の心がもつ力)」(昨年11月)
「Faith for a Harmonious Family(一家和楽について)」(同12月)
「Making and Keeping Your Resolutions(抱負を定め、継続するには?)」(本年1月)
などのテーマで行ってきました。今月はバレンタインデーにちなんで、
「What kind of love helps us become our best selves? (自分を成長させてくれる愛とはどんな愛か?)」(同2月)
というテーマで行う予定です。
ディスカッションの場で皆が心がけているのは、同じグループのメンバーに質問する際に、「私の国では〇〇だけど、あなたの国ではどう?」というふうに、自身の考えのもとになるバックグラウンドを示すこと。互いを理解するために、あるいは、〝違う〟ということを受け入れ、尊重するために重要だからです。
私自身、メンバーと接する時に、特に気をつけているのは、日本や自国の感覚で〝勝手に推察しない〟ということ。自国では当たり前であっても、他国の人からすれば、そうではない、ということはよくあります。
家庭訪問に行く前などには、相手の国の文化を調べることもあります。しかし、それでも十分ではありません。例えば同じ国でも州が違うと、国が違うくらい文化が異なるので、〝〇〇人〟とひとくくりにして接すると、コミュニケーションがうまくいかないことがあるのです。
事前に情報を得ることは大切ですが、それで相手のことを分かったと思ってはいけない――。そう自分に言い聞かせています。TIGの青年部責任者になるまでは、私の中にも、〝あの人は〇〇人だから……〟という偏見があったと思います。しかし、〝もっと相手のことを知ろう!〟と自分自身に「ドライブをかける(奮い立たせる)」ようになってから、見えてくる景色が変わり、自分の世界が広がりました。
違いを「受容」し、相手の声に真剣に「傾聴」していく――。その繰り返しの中で、情報を調べるだけでは得られない、本当の意味での「教養」が身につき、人間性が磨かれるのだと感じます。
今、実感していることは、結局は、それぞれに異なる400人のメンバー一人一人と向き合っていく以外にはないということです。違いが大きいからといって距離をとっていては、いつまでたっても理解し合えないまま。だからこそ、相手のことを積極的に〝深掘り〟していくことが大切なのだと思います。
TIGは、文化や背景がバラバラだからこそ、リーダーのみならず、一人一人のメンバーが、互いを知ろうと努力します。そうして紡がれていく固い絆が、私たちの強みです。
異国である日本において、「自分らしくいられる唯一の場所」と語るメンバーもいます。特に忘れられないのは、コロナ禍の中で励まし合った日々です。国によって感染の状況が異なる中で、故郷にいる家族や親戚が、立て続けに亡くなるという苦悩を経験したメンバーがいました。
TIGでは、そうしたメンバーの状況に思いをはせ、生死の問題をどう捉えるか、皆で深く考え、語り合いました。それが、祈りとともに、自分たちにできる最大限の励ましでした。
外国籍のメンバーは、こうした危機に際して、孤独に陥りやすい立場にあります。TIGでの語らいは、メンバー一人一人が、コロナ禍という経験のない苦難に立ち向かう支えになったと信じます。
私は、TIGは「メルティングポット」というよりも、「サラダボウル」のようだと思うことがあります。メルトは英語で「溶ける」という意味ですが、無理に溶け合ったり、ミキサーにかけたりする必要なんかない。そのままの個性で、互いを引き立たせていく――そんな「サラダボウル」のような存在が、TIGであり、TIGの理想です。
この理想に向かって、一人一人のメンバーとさらに真剣に向き合い、深く深く、互いのことを知っていきたいと思います。社会では、残念ながら、国や人種、文化の違いによる衝突が後を絶ちません。TIGは、違いを尊重し、皆が互いを引き立たせ、輝かせていく〝真実の共生社会〟の実現を、足元から目指していきます。