夏休みの終わりが不安なあなたへ

僕はこの夏、不登校だという高校生Y君と出会いました。
彼は「自分はこのままでいいのか」と葛藤し、その思いを僕に打ち明けてくれました。
同じように今、学校のことで悩み、夏休みを終えることが憂鬱な人もいると思います。悩みの内容や程度は人それぞれなので、安易にアドバイスをすることはできません。それでも、何か伝えられることはないのか――自問自答した上で、ここでは「Y君宛ての手紙」という形を取りながら、彼に「絶対に大丈夫だよ」と伝えた真意を、言葉にしたいと思います。

拝啓、Y君へ

この前、Y君は「自分はこのままでいいのか、悩んでいます。でも、親にはなかなか心が開けなくて」と話してくれたね。素直な心の内を教えてくれて、本当にありがとう。

もしかしたら、今、親に迷惑をかけているような罪悪感があったり、人生で取り返しがつかないような感覚になっていたりするのかもしれないね。そうした気持ちになるのは、人生に対して真摯に向き合っている証しだと、僕は思う。

もし、不登校の理由が明確なら、その障壁が取り除けるよう、親や先生など、関係者に相談していけたらいいけれど、それは決して簡単なことではないよね。必ずしも理由が明確でない場合もある。
理由があっても複雑に絡んでいる場合もあるし。
そもそも学校というシステム自体が大きく変わらなくちゃいけないという議論も、現実問題としてある。

世界っていくつもあって広い

Y君の状況とは異なるけれど、僕も中学生の頃、人間関係のトラブルがきっかけで、「学校に行きたくない」と思ったことがあった。
当時、思春期だったし、いろんなことに敏感で、クラスメイトからいじられたり、からかわれたりするのが、とてもきつかったんだ。
でも、僕はその後も学校に通い続けることができた。いや、通えたから偉いとか、すごいとか、そんなことが言いたいんじゃない。

“なぜ自分は通えたんだろう”と思い返してみると、「いい人」に、たまたま恵まれていたからだと、気づくことができた。
ここでいう「いい人」というのは、自分の人生を尊重してくれたり、視野を広げてくれたりする人のこと。
Y君は「そんな人は家族にも、友達にもいないよ」と感じるかもしれないね。
僕は、Y君を大切に思うし、心から尊重したい。

そうそう、僕は創価学会でたくさんの「いい人」に出会ってきたんだ。その中で、“人生の歩み方って、人それぞれなんだな”と教えてもらった。Y君は今、家庭と学校の二つの「世界」しか存在しないように感じるかもしれないけれど、世界って、他にいくつもあるし、ものすごく広い。多種多様な生き方をしている人がたくさんいるんだ。

例えば、学会でこんなメンバーと出会った。
小学校4年から中学校3年まで不登校。高校には進学しなかった。彼は、将来に対して希望なんて何も見いだせずにいたんだけど、信心と出合って変わった。社会人となった彼は今、多方面で活躍して輝いているよ。そして何より、苦労した分、悩んでいる相手の気持ちに寄り添い、励ませる人に成長したんだ。

もしかしたらY君は、大切な人生の時間を無駄にしているような気持ちでいるのかもしれない。けれど、そんなことはないんだ。必ず今の生活も、将来、振り返ってみれば、かけがえのない学びの時間だったと価値を見出せる時がくる。だから、軽々しくは言えないけれど、ありのままの自分を受け入れたらいいし、もしやりたいことが出てきたら、ぜひ取り組んでみたら良いと思う。

「ほめる言葉」と「叱る言葉」

そのためには、自分で自分を信じられることが大事になる。
とはいっても、悩んでいる時はそれが難しい。

何だかちょっと説教くさくなってきたかも。必要ないところは読み流してもらっていいから、もう少し付き合ってくれるかな。

Y君の周りでは「ほめる言葉」と「叱る言葉」、どちらを耳にすることが多い?

僕は小学校の教員をやっているんだけれど、ほめる言葉には、ものすごい力があると感じているよ。

「なんでできないんだ!」とか、叱る言葉ばかりを浴びせられていたら、学校生活にはなじみにくいよね。恥ずかしながら、自分も以前は、相手の成長のためと思って、叱る言葉を多用していたように思う。だけど、それじゃあ、その子本来の良さって育めないんだ。

ほめる言葉を大切にして、相手の目線に立ちながら一緒に考えて成長していこうとすると、相手の顔が変わるんだよ。“そんな表情も見せてくれるんだ!”って、こちらが驚くくらい。

小学校低学年で、自閉症の女の子がいてね。出会った当初は、行動面で落ち着きがない子だったんだけど、その子のことをどうしても理解したいと思った。試行錯誤する中で、こちらが教えよう、変えようとするのではなくて、“教わろう”という意識で接するようにしてみたんだ。

そうしたら、段々とその子にしかない個性や気質が見えてきて、そこを伸ばせるように、ほめることを増やしていったんだ。すると、ある時、その子が僕に“友だちをつくりたい”と相談してきて。僕は「どういうふうにクラスメイトに声をかけるか、一緒に練習してみよう」と伝えて、作戦会議をすることができたんだ。無事に声かけ作戦は成功したよ。

ほめるって、本当に大事なことだと学んだし、子どもは自信がつけば、いろんなことをどんどん吸収して、大人が想像できないくらいに成長していくものなんだなと実感した。それは大人だって一緒だと思う。

Y君、僕は君をほめたい。今回、僕に質問をしてくれたこと自体、ものすごく勇気のいることだったと思うし。
自分で自分のこともほめてあげてね。「よくがんばったな」「えらかったな」って。

ページをめくると会える

最後にもう一つだけ。それは“読書は作者に出会える”ということ。これは、ある識者が語っていたことなんだけど、僕は心から納得した。
僕も今まで悩んだり苦しんだりするたびに、池田先生の書籍を読んでは、生きる力をもらってきた。池田先生の心に触れるような感動を覚えた。

池田先生は、僕たちにこう呼びかけている。

世界には、たくさんの山がある。高い山、低い山。穏やかな万葉の奈良の山もあれば、勇壮な阿蘇がある。壮大な白雪のヒマラヤもあります。それぞれに美しいし、味がある。川も、鮭の故郷となる石狩川もあれば、詩情の千曲川もある。対岸が見えない大黄河があり、アマゾン川がある。その川にしかない魅力がある。人間も、それぞれの使命があって存在するのです。君には、君でなければできない、君の使命がある。必ずある。そう確信し、誇りをもってもらいたい。
(『青春対話1』〈普及版〉)

Y君も不安な時は、池田先生の書籍を開いてみてほしい。池田先生はいつも味方であることを忘れないでほしい。

そして、僕はY君のことをずっと祈っているよ。絶対に一人じゃない。
また近く、話せる日を楽しみにしています。