国連の主導する人権保障――国際人権規約と人種差別撤廃条約~連載「ヘイトスピーチを考える」②
6月18日は、国連総会で決議された「ヘイトスピーチと闘う国際デー」。連載「ヘイトスピーチを考える」では、ヘイトスピーチの解説や国内外の状況、仏法の視座から考えるオピニオン記事などを全8回に分けてお届けします。
第2回では、ヘイトスピーチに関わる国連の条約について解説します。
世界人権宣言から国際人権規約へ
第2次世界大戦を防げなかった反省を踏まえ、1945年に設立された国連。ナチスドイツによるユダヤ人の大量虐殺を教訓に、人種や性、言語、宗教による差別なく人権及び基本的自由を尊重するために国際協力をしていくことを、その目的と定めました(国連憲章第1条3項)。そしてこれまで、国連を中心に、ヘイトスピーチにも関わるさまざまな人権保障の枠組みが採択されてきました。1948年には、「人権の保障が世界平和の基礎である」との考え方を根底に、世界人権宣言が採択されます。
その宣言を実体あるものにしようと、条約化したのが国際人権規約です。
1966年の国連総会で採択され、1976年に発効しました。経済的、社会的及び文化的権利を扱う「社会権規約」(締約国数172)、市民的及び政治的権利を扱う「自由権規約」(締約国数173)に分かれ、包括的に人権を保障しています。それぞれの規約委員会が各国の報告に対して所見を発表しています。
自由権規約第19条には「表現の自由」が定められています。また第20条第2項には「差別、敵意又は暴力の扇動となる国民的、人種的又は宗教的憎悪の唱道は、法律で禁止する」とあり、ヘイトスピーチを法律で規制することを求めています。日本は国際人権規約を1979年に批准しています。
人種差別撤廃条約
1965年12月、人種差別撤廃条約が国連総会で採択されました。現在182カ国が加入しています。人権及び基本的自由の平等を確保するため、あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策等を遅滞なくとることを主な内容としています。国内の状況の報告を受け、委員会がそれに基づいて所見を発表します。
条約の背景には1959年~60年にかけて、反ユダヤ主義思想を扇動する活動が、ヨーロッパを中心に続発したほか、南アフリカ共和国のアパルトヘイト政策(黒人の人種隔離政策)など人種差別が行われていた実情があります。
ヘイトスピーチに関連する条文は、人種差別撤廃条約の第4条です。
人種的憎悪や人種差別の正当化・助長を企てる宣伝及び団体を非難するとともに、こうした行為の根絶へ、迅速かつ積極的な措置を約束すると書かれています。特に「法律で処罰すべき犯罪であることを宣言すること」が規定されています。
日本は1995年に本条約に加入していますが、4条の処罰立法措置をとることは、憲法にある表現の自由等を不当に制約する可能性があるため、適用を除外しています。
国連の人権保障だけでは不十分
国連を中心に、人種や性、言語、宗教による差別を禁止することは、ほとんどの国連加盟国が共有してきた規範です。ですが、いまだ性差別、外国人差別、宗教者への偏見などに基づく事件はあとをたちません。国内法や政策で差別禁止の理念を具体化する必要があるのです。
差別による悲劇をなくそうとした先人の思いを国際条約から学び、声として今に生かすことが必要です。
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